3Dプリンタハウスとバックミンスターフラー
『3Dプリンタハウス』という用語を最初に聞いたのは2019年のこと。やはりこういうものは海外が早いのだなと思いました。
大きな3Dプリンタで、うねうねとゲル状の素材を積み上げれば大きな構造物ができるというイメージはできても、その素材や動きの様子がイメージできなかったのでネット上で探してみると、どうやらコンクリートのようなものをチューブの先から流している。灰色のクリームだけで巨大なケーキをつくっているような感じでした。それが、24時間程度で家になるとのこと。
バックミンスターフラーという名前を思い出しました。
建築家で工学者で数学者で物理学者でデザイナーで詩人でもあったというマルチの人。ダビンチほどではないかもしれないけれど、いろいろなものを作ったようですし、「宇宙船地球号」という言葉を残したり、「最小で最大を成す」とか、「Think Globaly, Act Localy」と言ったりしているようです。それを今言っても素晴らしいですが、フラー博士が生きた時代は、工業化による高度成長に向けて世界がバリバリ進んでいた頃ということで、今こそ再評価されるべき人と思います。
具体例としては、自動車が巨大化し、どんどん派手なデザインになっていく時代において、空力とか燃費をとても強く意識した、潜水艦のような格好のクルマを生産しようとしたりもしています。
何よりすごいのは、とても大きな構造物を効率よく作るために彼が考案したジオデシックドームというあのドームハウスの基本構造が、自然界の中で発見されたという事実。人間が必死に考えて(1947年に)考案したものが、実は自然界の中に存在していた(1985年発見)というのですから、彼の思考はまさに、神に近づく行為。感動で寒気を感じます。さらにいうと、自然界の中で見つかったものはとても小さく、直径1ナノメートルくらい。(炭素60のクラスター状分子)
そんなフラー博士は、住居については、個人所有の財産というようには考えたくなかったようです。極端な言い方をすれば電話ボックスのようなものか、あるいは遊牧民のテントのようなものとすべきで、家という構造物が与える環境負荷、経済的負荷を極限まで軽減するとともに、交換も再生も可能な自由なものとすることで、従来型の家を持つこととは別の自由をより多くの人が得るべきと考えていたようです。
3Dプリンタの家は、その建築方法や佇まいの斬新さやコスト面のメリットよりもむしろ、家に対する考え方や向き合い方について再考する機会をもたらすものであってほしいと思います。